オリガルヒ

1990年代のロシアについて。主にオリガルヒ。時々チェチェン。まれにイラク、パレスチナ、その他紛争地。 自分はこれからどんな惨めな人生を生きていくことになるのだろう。考えている。

Thursday, November 11, 2004

次の次の本は?

昨日一昨日の2日間で、"The Oligarchs"は344ページまで読み進めることができた。

話の内容はさておき、この分野に関しては当事者が本を出しまくっていることを知った。衝撃的なほどに。

例えば、ボリス・エリツィンは"Midnight Diaries"という本を出している。彼が書いたのではなくて、ゴーストライターが書いたのだろうけど、その中には1996年の大統領選挙の時のことが書いてある。当時、共産党の方が明らかに勢力が上で、エリツィンが選挙で負けるのが明白だった。そんなら選挙を延期してしまえ!ということで、大統領命令を用意していたことが書いてある。

あるいは、初期のエリツィン政権内で主要な役割を担っていたガイダルは"Days of Defeat and Victory"という本や、その他にもいくつも出している。
同様にエリツィン政権にいたバシリエフは"Ten Years of Russian Economic Reform"という本を書いている。こちらにガイダルがはしがきを書いていたりする。
ルシコフも本を出してる。"The Renewal of History"など。
1995年ごろにチュバイスと親しい中にあったコフ(と読むのかどうか分からない…。Kokhという綴りだけど)も"The Selling of the Soviet Empire"という本を。

これらは全部英語で読めるものだけど、ロシア語の本まで含めたら、チュバイス、ホドルコフスキー、コルシャコフも本を出している。

つまりそれだけいろいろアピールをしなくちゃいけないと思ってたんだろうね。世論の奪い合いというか。
こういうふうなことになっているとは全然気付かなかった。

-----

"The Oligarchs"の著者のデイビッド・ホフマンは本当に研究熱心で、様々な本を読み漁り、すごくたくさんの人にインタビューしまくっている。そうやってこの本をまとめた。
この"The Oligarchs"という本はもともとアンナ・ポリトコフスカヤの"A small corner of Hell"の中で紹介されていて、それをきっかけに読むことにしたのだけど、序文を書いたノースウェスタン大学のゲオルギ・デルルギアンがなぜこの本を注に入れておいて参照するようにしたのかよく分かる。本当に良い本だ。
(注に入れたのは、翻訳を担当したアレクサンダー・バリーか、タチアナ・トゥルチンスキーかもしれないね)

実は、先に読んだ"Violent Entrepreneurs"も、"A small corner of Hell"の中で、"The Oligarchs"と共に紹介されていた本。"Violent Entrepreneurs"はそんなに面白くはなかったけど、確かに良く調べて書かれていた本だった。
同様に紹介されていた本は、もう一つあり、それがクリスチャ・フリーランドの"Sale of the Century"。そう、探しまくったけど、手に入らなくて、来年に増刷されるあの本。この分だと、"Sale of the Century"はすごく期待できそうだね。

-----

実は数日前からこの本の次の次に何を読もうかと迷っている。
"The Oligarchs"が良い本なのは間違いないのだけど、語り手の視点がオリガルヒの側に寄っているのもこれまた疑いのない事実だ。
彼はもともとワシントン・ポストの記者で、その関係でロシアに渡り、仕事をした。ワシントン・ポストという肩書きがあったから、ロシアの有力者がインタビューに応じてくれたのだと思う。
彼自身がインタビューした相手がものすごい。インタビューしてない人はいないんじゃないかと思うぐらい、関係者全員と会って話をしている。名前を挙げるとすると、ベレゾフスキーをはじめ、ホドルコフスキー、グシンスキー、チュバイス、スモレンスキー、ルシコフ、ガイダル、アーベン、バシリエフ、ソロス、コフなどなど。その他、ズラトキス、マラシェンコ、リソフスキーなど、大物以外にもたくさん話を聞いている。

これってものすごいこと。よくこれだけたくさんの人に話を聞けたなーと驚くばかり。当事者からじかに得られた情報がいっぱいで、そのおかげで、この本に読む価値が出ている。

ただしその一方で、これだけの人に会えたというのは、彼がその権益の中にどっぷりと漬かっているということでもあるんだよね。本の中でベレゾフスキーと何度もインタビューをしたと書いてあった。ベレゾフスキーとは仲が良かったんだ。そうやって関係を築いたからこそ、彼の関係者とも仲良くなっていったのだと思う。(ここでベレゾフスキーから広がっていったと書いたのは言葉のあやだ。本当は逆で、彼の関係者と仲良くなったから、ベレゾフスキーに近づけたのだろう。)
このベレゾフスキーやホドルコフスキーというのは、それぞれ別々に活動してお互いの顔を知らないというわけではなく、場面場面においてはとても深い協力関係にあった。ホドルコフスキーだけでなく、グシンスキー、ルシコフなども皆つながっている。デイビッド・ホフマンはその網の目の中にいたんだと思う。

とするとここで重要になってくるのは、その他の見方はないのか、ということ。
"The Oligarchs"が本当によく調べられて、よく書かれた本であるのは大前提として、ここに書かれなかったことがあるんじゃないかということ。

例えば、シブネフチの民営化の話などはさらっと流されていた。この話は、実は結構暗い部分があって、オムスクの原油精油所がシブネフチの一部にされようとしたとき、そのことを知った精油所所長のイバン・リツケビッチは反対した。彼は結構な有力者だったのだけど、オムスク製油所がシブネフチの一部になる直前に、イルティシ川で溺死体で発見された。
警察は殺人だとはしていなくて、これは事故だということで片がついたのだけど、そんなの誰が信じる? これが事故だと思うぐらい我々はおばかさんでいなくちゃいけないわけ?
殺したのがベレゾフスキーとアブラモビッチの勢力だっていうのは分かりきっているじゃない。
この事件は確かニューズ・ウィークがそういう方向で報道して、ポール・クレブニコフの"Godfather of the Kremlin"の中でも取り上げられている話。"The Oligarchs"の中では無視されている。

デイビッド・ホフマンも間違いなく知ってたはず。その他の面では本当に緻密な人なんだから、だけど書かないんだよね。
もちろん"The Oligarchs"が目指しているのは、信頼性の高い研究本で、このような事件が無視されてるのは当然のことかもしれない。公式には事故ってことになったし、殺人だと証明するすべはないから。

だけど、この分野に興味を持つものとしては、疑惑だとしてもこういうことは知っておきたいのだ。オリガルヒにとって都合の悪い話も知りたい。そういう意味で、"Godfather of the Kremlin"みたいなのが次に進むべきなのかなーと考えている。

0 Comments:

Post a Comment

<< Home