オリガルヒ

1990年代のロシアについて。主にオリガルヒ。時々チェチェン。まれにイラク、パレスチナ、その他紛争地。 自分はこれからどんな惨めな人生を生きていくことになるのだろう。考えている。

Monday, November 15, 2004

チュバイスとオリガルヒの衰退へ

今日は、Saving Boris Yeltsinの344ページから、その次の章のThe Bankers' Warの終わり、396ページまでを読破。
かなり飛ばした。飛ばすと言っても読み飛ばしたのではなく、ギアを入れ替えて集中し、本気で読んだという意味だけど(なんとも古風な表現!)。

それもそのはず、このSaving Boris Yeltsinの終わりからThe Bankers' Warって面白いなんてもんじゃないの! もしこれがフィクションなら真骨頂というか、最高に盛り上がる場面だと思う。
ただし、これは事実なので、面白いと表現するより、台無しというか、大悲劇と言ったほうが良さそう。

今回の章が扱っているのは、1996年のエリツィンの再選から、1997年のオリガルヒ同士の争いまで。
まさにこの時期にオリガルヒが最高の輝きを見せ、そして瞬く間に分裂していったのだ。なんともなー。

それにしても、アナトリー・チュバイス! すごいわ。なんか、惚れてしまった。カッコよすぎる。彼は本当に頑固で、自分の主張することを絶対に貫くの…。いいなー。私なんか、ちょこっと対立しかけると、すぐ自分の意見を引っ込めちゃうから、このチュバイスの頑固さには心底憧れる。
そして、単に自分の主張を貫くだけでなく、間違いがあった場合は、後からそれを修復しにかかるところも良い。偉いなー、偉いなー、と、ただひたすら唱えてしまいそう。
そしてなによりも、チュバイスの一番の特徴は、鋼鉄のような度胸の持ち主だということ。たとえどんな悲劇的な状況にあっても、どんなに緊迫した状況にあっても、彼は前進するために冷静に考えることを止めない。その一方で、状況が収拾可能なときには、感情に身を任せて叫ぶこともいとわない。
素晴らしい。全てが素晴らしい。けれど、彼のこういった特質の全てがロシアを滅茶苦茶にしたんだ。

彼は頭がいいタイプじゃないね。度胸があって、時と場所を心得ていて、熱意にもあふれている。そして自分が目指した目標に向かって、突き進む。これはもはや猪突猛進どころの騒ぎじゃなくて、なんというか、もう形容する言葉が見つからない。驀進…。爆走…。
けれど悲しいかな。チュバイスは大きな視点から物事を見ることができないんだ。民営化といっても、富豪と貧民を産んだだけ。民営化が急すぎて、ロシアの経済そのものがぐちゃぐちゃになった。そして、まだ396ページまでには出てこないけど、1998年には通貨切り下げによって、金融危機を生じさせたんだよね。

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とりあえず、読んだところの内容。

前回に引き続き、Saving Boris Yeltsinは1996年の選挙の話。
いかにグシンスキーのNTVとベレゾフスキーのORTがエリツィンを助けたかという話。テレビを持っているというのは大きいね。世論を左右できる。特にこの場合は、公共放送のもう一つの要RTRが国営なわけで、エリツィンのもとにオリガルヒが集まると、主要なテレビ局NTV、ORT、RTRの全てがエリツィン側になってしまう。
なんてすごいんだろう。日本でいったらNHKと日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日、TBSが全部同じ候補を応援しているようなものか。

エリツィンの対抗勢力となりうるのは共産党のシュガノフだったわけだけど、そのシュガノフをネガティブ・キャンペーンで叩きまくったわけ。そりゃエリツィン有利になるよねー。ってことで、エリツィンが再選…。
このとき注目は選挙資金はオリガルヒたちが出したのではなくて、ロシアの国有の資産をオリガルヒが強奪することによって、資金を捻出していたということ。

351ページから6ページにわたって、1996年の6月20日から21日にかけて起きた出来事が記述されている。これは非常に興味深く、チュバイスの魅力が最大限に発揮されている。
エリツィンを支援していたグループがお金を運び出そうとしているところで、エリツィンのボディガードだったコルシャコフが絡んで、リソフスキーを軟禁というかそういう状態にしてしまう。一種のスキャンダルだった。
それまでエリツィンの側には、オリガルヒを有するチュバイス派と、武力で行きたいコルシャコフが対立していたのだけど、この日、それが明らかな形で表出したの。
ベレゾフスキーのロゴバスのクラブに集まった面々は、ベレゾフスキー、グシンスキー、チュバイス、ズベレフ、ユマシェフ、ディアチェンコ、ネムツォフ、キセリョフ。なかなかに豪華な組み合わせ。彼らは「明日の朝、コルシャコフがエリツィンの元に行き、チュバイス派が金を取ってる!と密告し、我々は解雇される…」と恐れていたのであった。
結局は、コルシャコフの方が解雇されるという結果に。

その後、The Bankers' Warは、エリツィンが再選された後、「これまでのようにオリガルヒを優遇しないぞ! 民主的にやるぞ」と誓ったチュバイスが、急に政策を変更し、国営企業の民営化(というか、オークション)で、談合するのではなく、一番高い金を出したところに売ると決め、実際、通信会社のシブヤシンベストをそのようにしてポターニンに売った。
それに対して、「今までと話が違うじゃないか!」とベレゾフスキーとグシンスキーがぶちきれて、NTV、ORTと含む多数のメディアを動員した戦いになった。
今まで、オリガルヒというのは、エリツィンを軸に一応のまとまりを見せていたんだけど、ここで脆くも空中分裂してしまったのだ。諸行無常の鐘の音だわ。

ここで注目なのは、リソフスキーの言葉。チュバイスに対して徹底抗戦をしようとするベレゾフスキーとグシンスキーに、とても素晴らしい言葉を投げかけてる。393ページに、
「チュバイスをやっつけるってのは、何年かしたら自分の身が危険に晒されるってことだ。なぜなら、長い目で見たら、チュバイスは君らを潰そうとしたり、逮捕しようとはしないんだから。そんなことは絶対にない。彼は君らをロシアの資本主義者としたんだから。けれど、彼の役職にやってくる他の奴らは誰だって、君らに対してひどい扱いをするはずだよ」という発言が引用されている。
この発言は本当に意味深い。とりわけ、その後プーチンがやってきて、ベレゾフスキーとグシンスキーはロシアにいられなくなって、国外に逃げ出さざるを得なかったことを考えると。

ベレゾフスキーとグシンスキーは本当に凶暴で、容赦がない。この章を読んでいたとき、私はチュバイスのことが気にいってしまっていたので、彼らがチュバイスに対して無情な攻撃をしているのを読んで、「私のアナトリーちゃんを虐めないで!」と心から思ってしまった。本当に無情な人々。でも、こういう攻撃は、実はシュガノフに対しても使われたんだよね。選挙でエリツィンを勝たせるために、シュガノフをぶっ潰した。オリガルヒっていうのはもはや目も当てられないほど、自分の欲望に正直に生きていくんだね。良かった、私はオリガルヒじゃなくて。

とにかく、彼らのおかげで、チュバイスは痛手を被った。財務大臣の職も解かれてしまった。チュバイスのやろうとしていたことはもはや実現できなくなってしまったのだ。
もし、チュバイスが権力を維持していた場合を考えると、もしかしたらプーチンはやって来なかったかもしれない。ベレゾフスキーとグシンスキーには逮捕状が降りなかったかもしれない。そう思うと、リソフスキーの発言通りになってしまったのかなという気もする。

だけど、オリガルヒがオリガルヒでありえたのは、やっぱりこの気性の激しさというか、相手を徹底的に倒そうとする闘争心が中心的な要素として挙げられると思う。
オリガルヒから闘争心を奪ったら、後には何も残らないかもしれない。ということは、このチュバイスとの抗争や、結果的に生じたオリガルヒ同盟の分裂、しいては彼ら自身の崩壊というのは、起こるべくして起きたことなんだ。

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