オリガルヒ

1990年代のロシアについて。主にオリガルヒ。時々チェチェン。まれにイラク、パレスチナ、その他紛争地。 自分はこれからどんな惨めな人生を生きていくことになるのだろう。考えている。

Sunday, December 19, 2004

デイビッド・サッターの"Darkness of Dawn"とは?

Yahooのアメリカ版には、非常にいいサービスがある。キーワードを指定しておくと、そのキーワードが含まれるニュースが流されたときに、メールでお知らせしてくれてるの。そんな中で教えてもらった記事が、ガーディアンのこれ

いやはや、単に書評なんだけど、読む価値あるよ。書評の対象になっているのは、私が今月上旬に読んでいた"Putin's Russia"と、ペーパーバックが先々月発売されたデイビッド・サッターの"Darkness at Dawn"。どちらもロシアに関する本で、プーチンやFSB、オリガルヒに対して批判的な視点で書かれたという共通点がある。

書評を書いているのは、アンガス・マックイーン。ドキュメンタリー作家だとのこと。記事が公開されたのはガーディアンだから、どういう系統の記事になるかは読まなくても分かるといえば分かるね。

面白いと思ったのは、彼も私も同じ本を読んで書評を書いたわけだけど(なんて書いたら失礼かしら? プロの作家に対して。まぁ、とにかく…)、同じところを引用してる。
それは、10日前の『半分突破"Putin's Russia"』の投稿で触れた、「どうぞ。外の人たちに、私たちのお金がどんな類のものか知らせなさいよ」という一文。やっぱりこの文章は、あの本の中でも最高に注目な個所なんだよね。

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そんなわけで、書評が書かれているのだけど、一緒に挙げられているのは、デイビッド・サッターの"Darkness at Dawn"。私は、彼の名前もこの本も全然知らなかったのだけど、もしかしたらとても面白い本かもしれない。

彼はこの本の中で、『1999年のモスクワのアパート爆破事件は、FSBが仕組んだでっち上げだ』と主張しているそうだ。
この主張に関しては、チェチェン総合情報の方で読んだことがあったけど、本としては読んだことはない。読んでみるのもいいかもね。
このデイビッド・サッターという人は、1990年代のあのオリガルヒの時代に、ロシアの普通の人々がどんな暮らしをしていたか、どんな悲劇があったかということを書いているそうだ。実はこの領域というのは、私がまだカバーしてない分野だ。オリガルヒ側は読んだ("The Oligarchs")し、マフィア側も読んだ("Violent Entrepreneurs")。でもまだ普通の人については読んでない。アンナ・ポリトコフスカヤの"Putin's Russia"の中で、先にもあげたターニャの話や、その他の人々のことをちょこっとだけ読んだけど、もう少し情報を蓄えたいと思っている。それには、このデイビッド・サッターの"Darkness at Dawn"がぴったりかもね。

ところで、なんだかおかしくなってきてしまうのは、出てくる本がどれも保守派の人々によるものばかりってことだね。
このデイビッド・サッターという人は、フィナンシャル・タイムズとウォール・ストリート・ジャーナルに書いてたんだってさ。二つともかなりの保守派だよ。
ついでに、クリスチャ・フリーランドもフィナンシャル・タイムズで、デイビッド・ホフマンはワシントン・ポストだったね。ワシントン・ポストもかなり保守的。
そうそう、デイビッド・サッターはフィナンシャル・タイムズのモスクワ支局長を勤めたことがあるよ。1976年から82年まで。フリーランドと同じだね。

なんで保守ばかりなのかしら…、と思ったところで、理由は二つありそうな気がする。
一つは、「私がリベラルだと思う報道機関が非常に少ないから」。これはありうるね。ガーディアンだって、ときどきリベラルだと思えなくなるときがある私、世の中のほとんどの新聞が保守にみえてくる。
二つ目には、最初に触れたのが保守派の本("The Oligarchs"は保守派)だから、そこから別の本にたどり着こうとしても、保守派の本ばかりが出てきてしまう。つまり、私は今、保守派の領域のど真ん中で立ち往生してしまったというわけ。でも、考えてみればそうだよね。フィナンシャル・タイムズの語り口が好きな人は、"Sale of the Century"を読むだろうし、そういう人は"Darkness of Dawn"も読むかもしれない。フィナンシャル・タイムズつながりで。そして、両者を薦めるとかね。
"The Oligarchs"のところで、クリスチャ・フリーランドとデイビッド・ホフマンがいっしょに行動していたことを書いたけど、この二人の視点というのは、もしかしたら似通っているのかもしれない。だから、「この本のどちらかを気に入っている人は、もう片方も薦める…」。そうやって薦められた本を読んでいると、結局、保守派の文献のつながりの中に埋もれてしまうのだ。
もし2番目の説明が正しいなら、早く抜け出さなくちゃ…。とはいっても、この"Darkness of Dawn"が出てきたのは、"Putin's Russia"つながりで、"Putin's Russia"はどう考えても保守とは言えない。ってことは、この説は外れか…。
だって、こちらが正しいとなると、"Putin's Russia"は、保守派の本だということになる。でも、この点も真剣に考えなくちゃいけないよね。ポリトコフスカヤが保守派じゃなくて、リベラルなのは間違いないけど、彼女の本が、一つの本として出版された背景には、ロンドンが有する反クレムリンという大きな流れがあることも無視できないから。

そんなわけで、保守派による本を読んでいるというわけで、この問題点は、書いている人が保守派なので、資本主義への疑問とかっていうのが出てこないところ。結局「資本主義は悪くない。その導入の仕方に問題があった。それがロシアの問題の根本だ。」みたいな感じの結論にまとまるような気がする。それ以外の展開の仕方がないの。
「資本主義には根本的な欠陥がある。それが表出してしまったのがロシアである」とかっていう主張もありえるはずでしょ。これだって一つの見方だし、正当性はあるはず。
バディム・ボルコフは、大雑把にまとめると『資本主義がいきなり導入されてしまったので、人間の性である私欲というのが全開になり、それがロシア社会の底辺からの崩壊に繋がった』という主張だった。彼はこの点ではとても真実をついていたと思うし、リベラルな発想だったと思う。

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とにかく新しい本を知った、ということで投稿。
そうそう、アンガス・マックイーンはこういうふうに書いてるよ。ここは、是非引用しなくちゃ。"Putin's Russia"について、
『ロマン・アブラモビッチのイギリスへの到来と、彼に対するロンドン社交界の歓迎と、チェルシーのサポーターが表した支持を、良いものだ思っている人は、"Putin's Russia"を絶対に読まなくてはいけない。フランク・ランパードの週給にお金が消えていく裏で、シベリアの凍てつく町でどれだけの人生が破壊されたと?』と書いてあった。

そうだよ。これだよ。この視点が、オリガルヒとアンナ・ポリトコフスカヤとプーチンと私とを結び付けているの。
この視点は、なくせない。

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