オリガルヒ

1990年代のロシアについて。主にオリガルヒ。時々チェチェン。まれにイラク、パレスチナ、その他紛争地。 自分はこれからどんな惨めな人生を生きていくことになるのだろう。考えている。

Thursday, December 16, 2004

書評:"Putin's Russia"

書評ってのも書かないとね。

全体として非常に情報量が豊富で、読む価値がある本だと思う。
(これは、"The Oligarchs"の書評でも書いたような文章だ)

ただ読者層を絞っている本ではあるね。

テーマは「プーチン政権下のロシアの司法制度」なの。

確かにチェチェン紛争とも深く関わりがある内容だし、そもそもアンナ・ポリトコフスカヤはチェチェンの取材で名前を挙げた人ではあるんだけど、この本ではチェチェン紛争自体に関してはほとんど取り上げてない。
前作、"A Small Corner of Hell"で、チェチェンの一般市民にどんな犠牲者が出ているかということに注目を当てた。今度の"Putin's Russia"では、プーチンの登場によって、ロシアの人がどんなに被害を受けているかということをに着目しているの。

チェチェンの人が登場するのは、主にブダノフの件でのみ。最後のほうでももう一度出てくるけど、彼らはモスクワ在住で、モスクワでどんな人種差別を受けているかという話。
ブダノフの件は、ロシアの裁判所がいかに腐敗しているかを示すための例だったね。

その後、エカテリンブルクのオリガルヒの話があった。彼、フェドゥレフがのしあがったのは、エカテリンブルクの司法制度を手中におさめていたからで、それにはプーチンも関わっていると。フェドゥレフのプロジェクトにプーチンがやってきたりもしてる。
最後に、モスクワの警察が、ノルド・オストの後、関係ないチェチェン人を逮捕しまくったり、モスクワの学校でチェチェン人排斥運動みたいなのがあったりすると。

つまり、押えておかなくてはいけないのは、この本はチェチェン紛争ではなくて、プーチン政権下のロシアの司法制度を描いたものだと。
あと、これはわざわざ書くまでもないかもしれないけど、アンナ・ポリトコフスカヤがプーチンに対して非常に批判的な立場をとっていることも、踏まえておかなくちゃいけないね。プーチンを礼賛するようなのが読みたかったら、この本は期待に添えないと思う。

この2点を考慮に入れて、それでも読みたいなと思ったら、きっと満足する情報が手に入ると思う。
ロシアの裁判の中で出てきた文面や、裁判長の発言などが記載されていて、腐敗の現状にぐいぐいと迫っていける。オリガルヒ研究と言う面から見ても有用な本だった。

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ちょこっと文句を言ってしまうと、文章はあまり優れたものではなかった。早く読めると書いたし、実際、楽に読める本だったのだけど、句読点の打ち方が雑だった。
あと、文章が変。例えば、AとBが争っているとして、この本では、「Aは~だった。Aは、~された。Aは~どうたら」と書いた後で、2ページぐらいしてから、いきなり「Bは~」と書いてあって、「え? Bって誰よ?」と思うことが2回あった。説明が分かりにくいことがときどきあった。

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ちなみにこの本は、イングリッシュ・ペンがサポートに回っているのだけど、彼らのサイトを見たら、アンナ・ポリトコフスカヤが本の宣伝にやってきたときのことが書かれてあった。
それによると、この本の翻訳権は既に8ヶ国に売れてるんだって。で、その中にロシア語は入っていないはず。
ポリトコフスカヤの前作の翻訳本『チェチェン やめられない戦争』はかなり話題になった本だったようだから、今回の本も翻訳されて、日本語で手に入る可能性は高いんじゃないかな。

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