オリガルヒ

1990年代のロシアについて。主にオリガルヒ。時々チェチェン。まれにイラク、パレスチナ、その他紛争地。 自分はこれからどんな惨めな人生を生きていくことになるのだろう。考えている。

Wednesday, December 08, 2004

半分突破"Putin's Russia"

"Putin's Russia"、今日は順調に飛ばした。行きの西武線でこそ窓から景色を眺めただけで終わったけど、小田急線に乗ってからはがんがんに読みふけり、授業中の暇な時にも読み、帰りの電車では最初から最後まで読みまくった。

そんなわけで、現在146ページまで読んだところ。前日比+63頁♪ やったね。

書かれていた内容は、まず昨日話題に上げたブダノフの件。
この件の終わりのほうでは、クレムリンが当初の方針とは180度変わって、ブダノフをかくまったりせずに、有罪の判決が与えられるようにしたらしい。
2002年の大晦日に出された初審の判決では、レイプの事実は認められず(レイプは起こっていない!)、殺人についても錯乱によるものとし、無罪になった。
しかし、その後、最高裁のミリタリー・カレッジ(←これ、なんて訳せばいいのか分からない。'Military College of the Supreme Court'と書いてあったのだけど)が、翌年3月始めにこの判決を無効にし、裁判がやり直されることになった。
すごいね。一度出した判決を取り消してまで、ブダノフを有罪にしようとは…。その数ヶ月前までは、ブダノフをなんかして無罪にしようとしてたのに。でも、まぁ、いいことだ。
この件に関してはドイツの連邦議会がプーチンに手紙が出したり、サミットで会ったときにシュレーダー首相が直々にプーチンにどうなっているのか尋ねたということが書かれてあった。ドイツすごいじゃん!


その後、111ページからは第3章のTanya, Misha, Lena, and Rinat: Where are they now?という章。
これは、ターニャ、ミーシャ、レナ、リナットというアンナ・ポリトコフスカヤが個人的に知っている4人の人間に注目して、その生い立ちとロシアにおける現在の立場を記したもの。

ターニャの話が最高に面白くて、彼女はポリトコフスカヤの知人で、昔ポリトコフスカヤと同じアパートに住んでいた人で、当時は夫とその家族との仲が良くなくて、不幸せな日々を送っていた。けれど、1990年代の初めからモスクワの市場で事業を始めるようになって、今では、スーパーマーケットを何店舗も所有し、市議会議員に立候補して当選したとのこと。
彼女は、バディム・ボルコフの"Violent Entrepreneurs"に出てきてもおかしくないぐらいで、もろに活動領域はかぶっている。といっても、犯罪者グループの人ではなく、犯罪者グループに賄賂を渡す側だけど。1990年代前半にうまく立ち回ったおかげで、お金を稼いだ人たちの一人だ。

面白いのは、立候補したときの演説で、最後のほうにプーチンを絶賛したの。その会見場にはポリトコフスカヤも来ていて、「なんであんなことを言うの?」と尋ねたら、ターニャは「言わなきゃいけないの。それが最近の決まり。もし言わなかったら、次の日、FSBの人間がお店にやって来て文句を言ってくるわ。皆が言っていることを言わないことに対して。今の時代、ビジネス・マンはそういう状況に置かれているのよ。」
「もし来たらどうするの?」
「別に何も。賄賂を要求してくるわ。」
「何に対して?」
「言わなかったという事実を、忘れるために」
このやり取りが、126ページに書いてあった。
すごいね。ロシアの役人ってのは、本当に腐敗してるんだ。"Violent Entrepreneurs"は主に1990年代半ばの話だったけど、大統領がプーチンに変わってからも腐敗がなくなるわけではない…、と。当たり前といえば当たり前だけど、その点が確認できたのはありがたい。

私の坪にはまったというか、大笑いしてしまったのは、その次のページに書いてあったこと。
「最近彼女は電話してきて、彼女の記事を書いてと頼んできた。私は書いた。あなたが読んでるこの文章がそれ。彼女は、記事が出版される前に読みたいといい、読むと恐れ戦いた。彼女が死ぬ前にロシアでこの記事を出さないことを約束させられた。
『海外はどう?』
『どうぞ。外の人たちに、私たちのお金がどんな類のものか知らせなさいよ』
だから、今、あなたに知らせたところ。」

すばらしい。どことなく皮肉が混じっているところがいいね。
ついでに、この記事、一体どういう経緯で出版されることになったのか、途中ですごく疑問になったのだけど、それが解決されたのも良かった。だって、プーチンのFSBが賄賂を要求してくるなんて、書いたらダメなことでしょ。特にこのターニャはポリトコフスカヤの友人で、今モスクワの議員なんだから、大問題になっちゃう。
一方で、アンナ・ポリトコフスカヤに記事を書いてもらうよう頼むなんてターニャは何を考えていたのか。ポリトコフスカヤは、プロ意識がすごい強いね。生半可な記事は絶対に書かない。例え自らの知人に関するテーマでも、いつも通り、何の隠し事もせず、全てを暴いていく。これはすごいことだ。

その後はミーシャとレナの元夫婦の話。この話はこたえたよー。ミーシャは、アルコール中毒になり、殺人を犯し、刑務所に行ったりするのだけど、127ページから136ページまで10ページ分読んで、ミーシャのことをいろいろ知って、親近感も持てたところで、『ミーシャは地下鉄に飛び込んで自殺した。私たちがこの話を知ったのは、ずいぶん後になってからだ。』『彼はホームレスとして埋葬された。いや、正確にいえば、埋葬されたのは灰だけだ。というのも、こういう死に方をした場合、遺体は火葬されるから。彼の墓がどこにあるのか、知っている人は誰もいない』
という一文で話が終わった。

これを読んだときは「え?」と思ってしまい、数分間、その後を読み進めることができなかった。
なにそれ? 彼がどこの大学に行き、どこに就職したかという話を知った数十分後に、お墓もどこにあるか分からないなんてビビってしまう。
こういう展開の話が一番慣れない。例えば、ブダノフの件なら、犠牲者のエルザは最初から殺された人として登場するので心の用意ができている。
彼女の死は、ものすごい酷いものだけど、最初から酷いものだと分かってて読んでいて、しかも、この手の事件を私が既に知りすぎているせいであまり衝撃を感じることはない。どちらかというと冷静に事実を追いたい。
一方で、ミーシャの方はまさか死ぬとは思ってなくて、それが10ページを読んだ最後の6行で、恐ろしい記述があってショックを受けた。
だって、お墓もないなんて! 地下鉄に飛び込むなんて…。

-----

半分読んだところで思うのは、この本はとてもよく書けていると。ターニャのエピソードは本当に面白かった。
同時に、ブダノフの件を読んで確信したのは、この本の魅力の一つとして、権力を持った側の行動に対する怒りが、込み上げてくることが挙げられると思う。

どういうことかというと、例えばブダノフの件では、裁判長が裁判でどのような見解を述べたか、エルザ側の遺族の弁護人がどのような参考人を呼ぼうとしたのに対し、どう却下されたかということが書かれていた。

今まで、チェチェンに関しては、チェチェンの市民に関する話は読んでいたのだけど、裁判の詳しい展開についは丸っきり知らなかった。それで、60ページ分の内容を読むと、弁護人が目撃者を招集しようとしても却下されたり、2度の精神鑑定で責任能力があるとされているのに、それらが破棄され、3度目の別の精神鑑定が行われ、そこで「責任能力なし」という結論が導かれていたりと、不条理なことがいっぱい!
戦争そのものだけでなく、その周辺でも、こんなに納得できないことがあるのかということは初めて知った。

今まで読んできたどの本とも違う類の情報が載せられている。読む価値がある本だと思う。

-----

追伸
アマゾンの二冊の本が発送されたとのこと。明日には届くはず。

0 Comments:

Post a Comment

<< Home