オリガルヒ

1990年代のロシアについて。主にオリガルヒ。時々チェチェン。まれにイラク、パレスチナ、その他紛争地。 自分はこれからどんな惨めな人生を生きていくことになるのだろう。考えている。

Friday, January 21, 2005

"Abramovich"書評

ここでは、"Abramovich"全体に関する書評を。

結論としては、「読まなくても良いかなー」という感じ。学術書ではないし、ここで新たな事実が明らかになるってことはあまりないの。だけども、「読んでも良いかもしれない」とも思う。
「読むべきか?」という質問には、「何を期待するか?」によって受け答えが変わると思う。

学術書を期待するなら、この本を読む必要はない。一方で、軽めの本を読みたいなら、この本はばっちりおすすめのような気がする。
オリガルヒ本としては、情報の集大成みたいな"The Oligarchs"のほうがずっと詳しい。だけど、あちらに出てきたエッセンスは、"Abramovich"にも余すとこなく凝縮されている。オリガルヒに関してちょこっと知りたいだけなら、"Abramovich"一冊でもいいかなーぐらいに思える本。
また、後半のタイブロイド調の文章は、軽くさらっと読みたい向きにはおすすめ。アブラモビッチがどんな華やかな生活を送っているか知りたい人にもおすすめだよ。

その一方で、この本の問題点は、この本をオリガルヒ研究本として読むときに露になる。研究書として読むのは避けた方が無難だと思う。
この本は調査報道をする気はあまりないようで、例えばどの権益を使ってシブネフチを手中に収めたかとか、のし上がって行く上でどのビジネス・パートナーと袂を分けたか(つまり、誰を殺したか)とかいうことはほとんど書かれていなかった。
オリガルヒについて迫るには、その暗い過去を暴いていかなくちゃいけないと思うのだけど、そういう面では物足りなく感じることが非常に多かった。
特に前回の投稿でも書いたように、アブラモビッチの過度に同情的な記述も見られ、「そんなにアブラモビッチを擁護してどうする?」と思うことも多々ある。

ただし、オリガルヒ研究本として、全く役に立たないかといったらそうではなく、4つほど重要な情報を教えてくれた。
1. 1998年の時点で、既にアブラモビッチをクレムリンのNo.1と見る向きがあった。
2. アブラモビッチは、プーチンが最初の閣僚を決める際、面接に立ち会った。
3. プーチンが就任後、オリガルヒを呼び集めた際には、アブラモビッチは呼ばれなかった。(呼ぶ必要がないほど両者は親密だったということ)
4. チュクチ州で会社を登録するのは、単に税金をその州に納めて、チュクチ州を潤わせるだけでなく、節税のために必要なことだった。

あれれ、これだけだったかなー。でも、実はこの情報っていうのは結構他の本では漏れている領域で、大事なんだよね。
今の代表的なオリガルヒ研究本っていうのは、エリツィン時代の終わりに書かれたもので、プーチンになってからアブラモビッチがこれほどのしてくることは想定されていなかったの。だから、アブラモビッチの扱いがとっても少ない。
2番のアブラモビッチがプーチンの閣僚決定に関係していたなんていうのは、非常に重要な情報だよね。
また、1番の「1998年の~」というのも興味深い。これまで、アブラモビッチが出てきてからのオリガルヒ研究本というのがあまりないので、アブラモビッチがいつごろから権力を握り始めたのかが良く分からなかった。1番の情報は、エレーナ・トレグボワの本からの引用なんだけど、もともとはトレグボワと当時の大統領副補佐官のヤストルシェムブスキーの会話にあったもの。大統領副補佐官が言っていることならある程度信用をおいても良いんじゃないかな。1998年の時点で、アブラモビッチがクレムリンの影の最高権力者だった可能性は高い。

ということで、大いにおすすめすることは出来ないのだけど、それでもいくつか重要な情報を教えてくれた本だった。
「他に読む本がないなら、読んでもいいんじゃないかなー」という感じの本。

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